スマホ新法を技術者向けに徹底解説|外部決済・代替ストア・ブラウザ自由化の行方

2025年12月18日、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアの公正競争を促す法律(令和6年法第58号、通称:スマホ新法)が全面施行予定です。
本記事では、開発者・PM・法務担当が押さえるべきポイントを、図解スライド(全16枚)とともにわかりやすく解説します。

スマホ新法(スマートフォン競争促進法)概要

スマホ新法とは

正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」。スマートフォンのOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンを提供する巨大プラットフォーム事業者に対し、公正な競争と透明性の確保を義務づけます。監督は公正取引委員会(経済産業省と連携)。公布は2025年6月19日、全面施行予定は2025年12月18日です。

正式名称、公布・施行、監督機関、適用範囲の整理

法律制定の背景

スマホが生活・経済のインフラとなる中、アプリ配信・課金・検索などの中核機能が少数事業者に集中。外部決済や代替ストアの制限、不透明な審査や高額手数料が課題でした。EUのデジタル市場法(DMA)が世界の流れを後押しし、日本でも「閉じたエコシステム」から「開かれた技術環境」へ転換する必要が高まった──それが本法の背景です。

背景要因の全体像

規制対象となる特定ソフトウェア(4種)

本法の対象となる「特定ソフトウェア」は、OS / アプリストア / ブラウザ / 検索エンジンの4分類。これらを提供し、市場支配力を持つ企業が指定事業者として規制の中心となります。

対象範囲の可視化

指定事業者

指定事業者は、公正取引委員会が法の基準に基づき指定。例として、Apple(iOS/Safari)、iTunes株式会社(App Store)、Google(Android/Google Play/Chrome/検索)などが想定されます(資料のスライドは理解促進のための例示)。

指定事業者イメージ

禁止される行為①(データ・差別)

  • 開発者データの不当利用:収集データの自社優遇転用など
  • 特定アプリの優遇/差別:審査運用・ランキング・特集掲載での恣意性
  • 不透明なアルゴリズム運用:結果の恣意的操作、基準非公開
  • 不利な条件変更の一方的適用:手数料引上げ等を十分な説明なく実施
禁止行為①の整理

禁止される行為②(排他的行為)

  • 代替ストア/サイドローディング妨害:技術的阻害、配布制限
  • 外部決済の禁止・自社決済の強制:外部リンク禁止、強制徴収
  • 自社サービスの検索優遇/デフォルト固定
  • APIアクセス差別:自社優遇・他社制限、互換性阻害
禁止行為②の整理

義務事項①(透明性の確保)

  • データ取得条件の開示:項目、目的、第三者提供等を明示
  • 審査基準/手数料/ランキング要因の明示
  • 仕様変更の事前通知:OS/SDK/APIやレビュー基準の大幅変更は余裕をもって告知
  • ログ・監査証跡管理:アルゴリズムや決定過程の記録と説明責任
透明性の確保

義務事項②(自由化への対応)

  • データ移転(ポータビリティ)の実装
  • 標準設定の自由化:既定ブラウザ・検索の容易な変更
  • プリインアプリの削除/無効化の容易化
  • 代替ストア/代替実装の受入れ:合理的な安全要件のもと許容
自由化への対応

監督体制と罰則

執行は公正取引委員会。課徴金は違反売上の最大20%(再犯最大30%)、報告義務違反や虚偽報告には刑事罰(法人最大3億円)も。今後はガイドラインが整備され、対話を通じた実務運用が進みます。

監督・罰則の全体像

技術者への影響①(決済・ストア)

  • 外部決済の選択肢拡大:手数料最適化、独自決済実装、レシート検証・署名設計
  • 外部リンク規制の緩和:自社Web決済誘導のUX設計、価格戦略
  • 第三者ストア/サイドローディング:署名・配布手段の多様化、アップデート設計
  • ストア審査・契約条件の多様化:複数ストア対応の運用設計
決済・ストア周りの実務影響

技術者への影響②(開発環境)

  • iOS WebKit制約の緩和/見直し:PWA性能・機能向上、他エンジン選択の自由化
  • OSレベルAPIアクセス拡大:通知/バックグラウンド/決済/ヘルスデータ等
  • データ透明化対応:SDKデータ収集マップ、CMP導入、プライバシー表記整備
  • 変更通知に追随する体制:自動テスト強化、CI/CD整備、フィーチャーフラグ運用
開発環境の変化

施行スケジュール(タイムライン)

2025/06/19 公布 → 2025年後半 ガイドライン公表 → 2025/12/18 全面施行(予定)。指定事業者への義務が本格適用されます。

施行までの流れ

EU DMAとの比較

日本のスマホ新法は対象をスマホの中核ソフトウェアに絞りつつ、外部決済・代替ストア・標準設定の自由化・データポータビリティなど主要要素はDMAと共通しています。

DMAとスマホ新法の比較表

今すぐ準備すべきこと(チェックリスト)

  • 決済:外部決済導入方針 / 料金設計 / 外部リンクUX / レシート検証
  • 配布:代替ストア対応 / 署名検証 / 更新運用フロー
  • プライバシー:データ目録整備 / SDK設定の最適化 / 表示文更新 / CMP導入
  • テック運用:API変更モニタリング / 自動回帰テスト / リリース列車
  • 法務・ガバナンス:規約改定 / 監査ログ設計 / 報告体制 / インシデント対応
実務チェックリスト

まとめ:開かれたモバイルへ

スマホ新法は、閉じたエコシステムから開放へ舵を切る転換点です。技術的自由度の拡大と引き換えに、透明性と説明責任がこれまで以上に重要になります。
まずは外部決済/配布戦略の見直し、データ透明化対応、自動テスト体制の強化から着手しましょう。

要点のおさらい

よくある質問(FAQ)

すべてのアプリに外部決済が必須になりますか?
必須ではありません。選択肢が拡大するイメージで、外部決済の導入可否や条件はガイドラインや各ストア規約の更新に基づいて判断します。
代替ストア対応は義務ですか?セキュリティは大丈夫?
義務ではありませんが、合理的な安全要件のもと許容される方向です。署名検証・審査・マルウェア対策などの トラストメカニズムを前提に運用される想定です。
iOSのWebKit強制はすぐに撤廃されますか?
具体はガイドラインやOS側の実装に依存します。段階的な緩和/見直しと捉え、PWA/他エンジン前提の検証環境を用意しておくのが現実的です。
事業者の違反に対してユーザーや開発者は何ができますか?
公正取引委員会による調査・命令に加え、差止請求・損害賠償の枠組みが整備されます。違反疑いの情報提供ルートも用意される見込みです。

参考:令和6年法律第58号「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(公布:2025/06/19、全面施行予定:2025/12/18)

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